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<シーズン最後のキャンプは焚火とともに>
11月半ばの秋晴れのすがすがしい日、我が家は、茨城県の常北家族旅行村にやってきていた。目の前では、パチパチと薪が音をたてながら、真っ赤な炎をあげていた。
「やはり焚き火は、いいね。何だかじんわり身体が暖まってくるよね。」
「そろそろ、ぜんざいの準備を始めた方がいいわよ。」
「よし、そうだな。さあ、みほちゃん、おとうが小豆を煮ている間、時々焚き火をうちわであおいでね。」
「うん、わかった。」
かみさんに促されて、小豆をぐつぐつ煮始める。コッヘルをシングルバーナーにかけてしばらくすると、白い蒸気が盛んに吹き出てきた。
今年の最終キャンプは、いつもの年に比べたら2週間以上も遅くなってしまった。し
たがって、寒さ対策には十分気を使った。ちょっと邪道だけど、今回はいつもと違って電源サイトを予約し、夜は電気毛布を使うことにした。そして、焚き火。おやつも、身体を内側から暖めてくれるぜんざいにしてみた。
小豆を煮ている間に、サイトの前でお正月の年賀状用の家族写真を撮った。晩秋の午後の日差しは、とてもやわらかだった。回りの木々の葉は、黄金色に輝いていた。
そのうち弟家族が到着した。弟にその奥さんと2才の娘の3人家族だ。でも、奥さんのお腹には赤ちゃんがいるので、今日はテント泊ではなく、バンガロー泊だった。
「いや〜、遅くなってごめん。なんやかんやで、準備に手間取って、すっかり出るのが遅くなってしまった。」
「ああ、いいよ、いいよ。ちょうどぜんざいが出来上がる頃だから、これ食べて焚き火にでも当たっていよう。」
小豆は煮えていたので、あとは、おもちを焚き火の上で焼いて、鍋に放り込めば出来上がりである。網の上で、小さく切った餅が、次々とぷしゅーっと膨らんではつぶれた。
できあがったぜんざいを皆に手渡す。器からの湯気が心地よい。
午後の日差しは夕陽へと変わった。さきほどから、きゃっきゃ、きゃっきゃとボール遊びをする私の娘と弟の娘の2つの影も、遠く長く伸びた。
ああ、晩秋である。
夕食は、五目釜飯に豚汁、そして焼き鳥にした。日が落ちるとすっかり寒くなった。
ランタンに火を灯し、焚き火の回りに椅子を並べたまま、その回りで輪になって夕食を食べた。やはり、大家族で食べる夕食はうまい。そして、火を囲みながらというのは、
一層キャンプの夕食をうまくした。ビールで乾杯をし、焼き鳥片手に酎杯に酔った。豚汁は身体を芯から暖めてくれ、釜飯は日本人で良かったなあと改めて思わせてくれた。
夕食を食べたら、かみさんが、焚き火の中にアルミ箔で包んだリンゴを放り込んだ。
焼き上がったリンゴには、蜂蜜とシナモンをかけて、コーヒーと一緒にデザートとした。とても甘く、娘達も喜んで食べた。
<キャンプ場に天文台 木星観測>
しばらくして場内アナウンスが流れた。
「本日は、夜7時半より、場内天文台にて、木星観測を行います。」
昼間、今週はやらないと聞いていたので、びっくりした。何とラッキーな!
私のかみさんと弟の奥さんは、夜相当冷え込んできたので、バンガローで待っていることにして、私と弟、そして2人の娘で行くことにした。
天文台は、おとぎの国のようなバンガロー&キャビン村の一角にあった。たくさんキャンパー達が集まり、寒い中、外で順番を待っていた。中にはすっかりお酒で出来上がった人もいて、さかんに子供達に”寒いよ〜って言え!”とけしかけていた。そんな中、実直そうな天文台の観測員の方が、「お静かにお待ち願います。」と繰り返していた。酔っぱらいを迎える天文台の方も、ちょっと気の毒であるが、あまりに対照的なのでちょっとおかしかった。
最初に木星についての科学映画を見た後、屋上にあるドームに上がった。屋上では、観測員の方々が晩秋の夜空について説明をしてくれた。ひときわ輝くのが木星。そしてその横で輝いているのが土星とのことだった。今年は、2つの惑星が同じ方角に見える珍しい年なのだそうだ。
吐く息は真っ白だ。かなり冷え込んでいる。そんな中で、満天の星々達が、冷たく暗い夜空の中で、きらきらと氷のように輝いていた。
それから順番にドームの中に入って、天体望遠鏡を覗かせてもらう。天体望遠鏡は、まさに天文台と言えるとても大きな立派な”機械”であった。そして、すっと一直線に、ひときわ輝く星に狙いを定めていた。順番がやってきて、まず娘に覗かせる。
「どう? みほちゃん。木星見える?」
「おとう! すごいよ! 縞模様まで見えるよ!」
今度は、ちょっとどきどきしながら私が覗く。すると、白く輝く硬貨のような木星には、くっきりと3本くらいの縞模様が見て取れた。そしてさらに驚くことに、肉眼では見えないのに、木星の両脇には、4つの銀色の粒のような衛星が輝いていたのである。
何と神秘的な!
私達はみんな大満足でサイトに戻った。
いったん弟家族の泊まるバンガローに集まった後、私達家族はテントに戻った。いよいよ試練の寒い夜となった。ちょっと不安だったが、電気毛布のスイッチを入れ、シュラフに潜り込むと暖かく眠れそうだった。寝相の悪い娘がシュラフから飛び出さないように、しっかりジッパーを閉めてやった。
「なおちゃん、寒くないか?」 私はかみさんに話しかけた。
「うん。結構暖かいわ。私も、こんな季節でもキャンプできるくらいに、良くなったのねえ。」
「ああ、本当だね。よかったね。」
キャンプを再開した時、それは、かみさんの半年近い入院でいったんばらばらになってしまった家族の絆を確かめるような気持ちで、私はキャンプをしていたかと思う。あれから丸5年たった。今では嘘のようにすっかり落ちつきを取り戻している。
2000年の年賀状は、このキャンプで撮った家族写真を、フォトCDに焼いてもらい、これを”宛名職人”でアレンジして作成した。流行のパソコン年賀状である。さすが今年買ったエプソンのプリンターPM770c、パソコンが古くても驚くほど鮮明な画像で大量の印刷をこなした。オータムカラーの中で、微笑む家族。2000年も楽しいキャンプができますように!
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