キャンプ&ドライブ日誌
(2)昔のキャンプ&ドライブ日誌
12)キャンプの楽しさ再び【栃木県那須キャンプラビット】1999年7月
<久しぶりのキャンプ>
 7月末日の朝、ついにキャンプ再開の時がやってきた。待ちに待ったこの日は、朝から夏空が広がり、絶好のキャンプ日和になった。久しぶりにキャンプをやるにあたって選んだキャンプ場は、那須にある”キャンプラビット”。今回は真夏のキャンプなので、暑さを避ける意味での標高”をキャンプ選びのキーポイントにした。2年前南アルプスの麓でキャンプをした時は、”南アルプス”という涼しげな名前とは裏腹に、うだるような猛暑の中でのキャンプとなってしまった。キャンプラビットは、標高550m位で、決して高いとは思えなかったが、ガイドブックによればそこそこ涼しいという。念のためインターネットで那須地方の気温を見てみると、東京が34度の時に29度で、朝晩は24度位まで下がることがわかった。これなら、熱帯夜での眠れぬキャンプの心配はなさそうだ。料金が6千円と高めだが、場内には露天風呂もあることだしと、納得して予約を取った。
 
 今回のキャンプは、1年3カ月ぶりキャンプなのだが、気持ちとしては2年ぶりと言ってよかった。それは、この14番会議室にキャンプ日誌をアップするのが2年ぶりだからだ。去年は4月に、1回だけ常北家族旅行村へ行ったことは行ったのだが、小雨の中でのキャンプで、全く盛り上がらないキャンプになってしまい、正直言って書くにかけなかった。そして、その後は、キャンプからずっと遠ざかっていた。理由は、気恥ずかしい話なのだが、キャンプに行くのを我慢してでも英語の勉強に力をいれようと決意したからだった。30代も半ばを過ぎ、そろそろ自分の進路も確定されつつある中で、どうしても入社時の夢である海外関係の仕事に就くという目標に向けての”最後のあがき”みたいなものだった。と言っても、受験生並みに勉強が続く訳なく、まあ、好きなこと我慢してでも何とか頑張るぞ!みたいな決意表明のために、敢えてキャンプから遠ざかっていたようなものだった。
 でも、少しは報われた。TOEICの成績はそこそこのレベル迄上昇し、そのことが、6月に1週間アメリカへ調査のため出張する機会をもたらしてくれたのだった。"Dream comes true."  ささやかだけど、 一応、長年の夢がかなったのであった。
 そんな訳で、ようやくキャンプに復帰できる自分なりの理由が見つかったのだった。

<夫婦水入らずのキャンプに出発>
 出発の朝、5時少し前に目が覚めた私は、早速、愛車カローラレビンの洗車にかかる。この車も、つい先日4回目の車検を終えた。長いつきあいだ。まだまだ大事に乗ってやりたい。気持ちをこめてワックスでゴシゴシ磨き上げると、白いボディーが朝日にまぶしく輝いて応えた。
 積み込みに一汗かいた後、家に戻り、かみさんの作ってくれたおにぎりを大急ぎでぱくつく。そして7時半に出発した。
 
 いつもだと、隣にかみさん、後部座席には小2になった娘のみほこがいるのだが、今回はかみさんのみ。みほこは、かみさんの実家のある福井へ遊びに行っているのだった。今回のキャンプは、初めての夫婦だけのキャンプでもあった。
 行きの道は極めて順調だった。三郷からの東京外環自動車道を経由して東北自動車道にはいる。大谷パーキングエリア手前あたりで少しノロノロ運転になったが、それ以外は順調だった。2年前、南アルプスに行った時の中央道の渋滞は本当にひどかった。今回は、気持ちよく走ることができた。この点でも、こちら方面を選んだのは正解だった。
 小野リサのボサノバをかけながら、東北自動車道をのんびり走っていく。隣のかみさんは眠ってしまった。走りながら、まわりの車をチェックする。FCAMPERに出会えるだろうか? うちのカローラレビンは、リアウインドウと、ルーフキャリア&ラック、さらにはキャリアの上のRV-BOXに”きゃんすて”を貼っているので、結構目立つはずなのだが、一度も他のメンバーと出会ったことがない。そして..... 残念ながら今回も出会いはなかった。
 
<設営すら、懐かしく心地よい>
 高速道路を降り、気持ちのよい高原の林の脇を通り過ぎ、田舎道を走っていくと、のどかな牧場が見られた。そしてキャンプ場に着いたのは、10時45分だった。実は、受け付け開始は午後1時からで、ちょっと早く着きすぎた。近くの温泉でも紹介してもらおうかと受付に行くと、今から設営しても構わないとのこと。ありがたい。
 示されたサイトは、背の高い木立の緑がドームのように上を覆った、木陰の気持ちよさそうな場所だった。森の中にうまくキャンプサイトが配置されている。また、場内のせせらぎの流れる音が心地よい。
「おっ! 暑くはないぞ。これなら夜は大丈夫だ。さすがは天皇家の避暑地だけある。」
 車から降りると、決して涼しいという感覚ではなかったが、少なくとも蒸し暑くはなかった。今日の東京の予想気温は34度だったから、やはり那須が避暑地だという言葉に偽りはなかった。よかった!
 早速、タープの設営から始める。ペグ1つ打つのも、のんびりと楽しむ。1つ1つの動作が妙に懐かしく、自然と心が軽くなってくる。以前は、設営1つ取っても、何分以内でやろうなんて、気負いのようなものがあった。「設営=めんどうなこと」だった。 でも、不思議と今は、そんな気分は起こらない。
 タープを立ててると、黒いものが飛んできた。見ると、真っ黒いカミキリムシだった。元気に小石の敷き詰められた地面を歩いている。
「本日最初のお客様だ。」
「かわいいわね。この調子なら、コクワガタも採れるんじゃないかしら。」
 実は、かみさんの今回のキャンプの重要な目的は、家で飼っているコクワガタのお婿さんを探すことだった。わが家のコクワガタは、以前キャンプ場で採ってきたコクワガタ夫婦の娘で、マンションの6階にあるわが家で生まれ、去年成虫となった。寿命を考えると、今年は是非ともいいお婿さんを見つけて、また子孫を残してほしいところだ。かみさんは、花や植物よりも、生き物に興味があるようで、コクワガタ以外にも、ざりがにを飼っている。
「平安時代の頃より、虫を愛でる姫は変わり者と言われていたんだよ。」と私が言っても、全く意に介さない。
 カミキリムシは、元気に歩き回りながら、そのうち姿を消した。
 タープ、テントが立ち、最後に大好きなコットを開いて、とりあえず準備完了。ここで、アイスクリームと美味しい牛乳を管理棟へ買いに行った。丁度、お昼頃。少しずつキャンパーが到着し始め、設営のためにペグを打つ音が場内に響くようになった。この音も懐かしい響きである。
 アイスクリームをなめながら、椅子に深々と座り、木陰を楽しむ。
 ホーホケキョ ホーホケキョ ケキョケキョ
 ちょっと季節外れの気がしないでもなかったが、ウグイスの鳴き声がさわやかに響きわたる。
 子供抜きで夫婦2人でキャンプ場にいるのは、違和感があるかなと思ったけど、全然そんなことはない。娘のことはすっかり忘れてしまった。不思議なくらい。

<キャンプ場でのんびりと>
 昼食は、前日の名古屋への出張で買ってきた宮きしめんにした。水がとても冷たかったので、ひんやりとよく冷えたきしめんは、とてもおいしかった。
 ビールを空け、その後はコットに横になる。目をつぶると、いろんな音が聞こえてきた。風に揺れる梢の音。小鳥の鳴き声。そして、ヒグラシの鳴き声。ヒグラシの鳴き声には、どこか郷愁を誘う響きがある。遠い夏の日の夕暮れを思い出す時、決まってこのヒグラシの鳴き声が記憶と共にある。この心地よい今日も、ヒグラシの鳴き声とともに、いつか遠い夏の日の記憶の1ページになっていくのだろう。私は、うとうとと眠りに落ちていった。
 1時間ほどたって気がつくと、隣のサイトに若いカップルが到着したところだった。さて、風呂に入るまで、あと30分弱。お米でも研いでおくか。


<露天風呂、そして夕食>
3時半になり、露天風呂にはいる時間がやってきた。30分間予約制の家族風呂である。

露天風呂は、浴槽自体は広くはないけど、こぎれいで気持ちのよいお風呂だった。外の雑木林の青々した緑を見ながら、かみさんと二人で湯船につかる。やっぱりシャワーなんかでは得られない風情がある。しかも、夫婦ふたりで入れるなんて。ああ、至福のひととき。

お風呂から上がり、一杯の冷たい麦茶を飲んだ後は、夕食の準備にはいる。今晩のメニューは、トロピカル風カレーに、すいかのフルーツポンチ、茄子とピーマンのサラダだ。いずれも雑誌に紹介されていたものだ。カレーは、水の代わりにココナッツミルクを使う夏野菜カレーである。私はカレーを受け持ち、それ以外は、かみさんが作った。
夕方6時半になった。出来上がった料理をテーブルに並べ、コップにワインを注ぐ。夕暮れの中、ちょっと早いけどランタンに火を灯す。記念写真をパチリ。
「かんぱ〜い!」

 二人のディナーが始まった。トロピカルカレーは、ココナッツの甘い香りがエキゾチックだ。味の方も、ハウスジャワカレー・スパイシーブレンドの激辛がココナッツミルクでうまくマイルドにされて、なかなかいける。
「あなたは、キャンプと言えば、カレーを食べたがるし、私はそれではいやだし、そこで斬新なカレーがないかチェックしていたのよ。」 
 今回のメニューを決めたのは、かみさんである。やはり普段とは少し違う”華のある料理”はいいもんだ。
 迫りくる夕闇の中、ランタンの光に、かみさんのワンピースの白さがほのかに浮かんだ。これは、6月のアメリカ出張の時に、ダラスのショッピングモールで、必死に探し回ったものだ。とても気に入ってもらえ、最近は、外出する時は必ずと言っていいくらい身につけている。首には新婚旅行の時にハワイで買った白い小さな貝のネックレス。夕闇が深くなり、やがて夜になった。私もだんだん、ワインとビールで気持ちよくなってきた。
 
 満腹感に満たされ、椅子に座ってのんびりとしていると、突然、ガサゴソ...ガサゴソ...と何かが動く音がした。音の方を振り向くと、何やらドブネズミぐらいの大きさの動物が近寄ってきた。ぎょっとしつつもよく見ると、それはネズミなどではなく、ヒキガエルだった。この2番目の珍客は、ぴょんぴょん跳ねるのではなく、よつんばいでノソノソと歩くのである。
「ねえ、何だか、あのヒキガエル、みほこが赤ちゃんの時のハイハイに似ているわよ。」
 言われてみれば、全くそのとおりで、思わず吹き出してしまった。
 その次のお客は小さなアマガエル。車のウインドウに張り付いていた。手を差し出すと、軽快にぴょん!ぴょん!と跳ねて、どこかへ行ってしまった。
「みほちゃんがいたら、きっと喜んだかもなあ。」
 私達は、すっかり忘れていた娘のことを、ようやく思い出した。
「さて、コクワガタでも採りに行こう。」

<静かな夜>
 いよいよ、キャンプのもう1つの目的に着手だ。管理人さんに事前に聞いておいたポイントへ向かう。まず自動販売機あたり。蛾やらガガンボみたいなのはいるけど、甲虫はいない。次に、ゲート周辺。クヌギと電灯の組合せは、もしやと期待させられたが、残念ながら何もいなかった。
「やっぱりいないね。樹液がしみ出ていないせいかな。」
「ほら、見て。かぶと虫をおびき寄せるための蜜が、ここに塗ってあるわよ。でも、いないみたい。」
「じゃあ、明日早起きして、探してみるか。そうと決まったら、さっさと寝てしまおう。」
 私達はテントに戻り、シュラフの上に横になった。夜9時で少し早かったけど、不思議と静かだった。普通だと、うるさい騒ぎになかなか寝付けないのが真夏のキャンプなのだが。マナーがこれほどいいキャンプ場も珍しい。期待どおり気温も下がり、クーラーの効いた部屋で眠るのと同じくらい快適な夜になった。そして、二人ともすぐ眠ってしまった。
 夜中、ふと目が覚める。木々の梢が風に大きくなびく音が、波のうねりのように聞こえる。あちらでうねった波は、次はこちらに打ち寄せる。トイレに行くために、外に出ると、木々の上の方は大きく揺れているのに、下の方は不思議と風がなかった。あたりは、昼間や夜のランタンの灯った世界からは想像のつかないほど、別の表情を見せていた。少しこわいほど厳かな森の奥の雰囲気。空を見上げると、月も姿を見せず、雲がものすごい勢いで流れていた。

<翌朝>
 翌朝は、5時に起きだし、近くのクヌギの森も探し回った。でも結局、コクワガタは見つからなかった。見つかったのは、ゴマダラカミキリが1匹いたのみ。手で捕まえると、首をぎしぎし言わせた。とても懐かしかった。再び木に止まらせる。
「残念だけど、だめね。私は、もう少し眠るわ。」
「俺は、ちょっと場内のクヌギをチェックしてみる。」
 何とかかみさんのためにコクワガタを見つけたかったが、この後見つけたのはゴミムシだけだった。
 朝ごはんは、昨日のカレーとフルーツポンチの残り、そしてトーストにコーヒー。涼しい風が吹いて、気持ちのいい朝食となった。
 帰りは、車の中で、NHKの「やさしいビジネス英語」の放送を聞きながら帰った。ちょうどその時の話題が、「レジャーの楽しみ方」。番組の中で、”ご主人と一緒に休暇をとると、ロマンスを再びかき立てるための時間ができる”ということを言っていた。アシスタントの女性もこれにひっかけて、ご自身と旦那様の話をちょっぴり恥ずかしそうに話していた。聴きながら、思わず口元がゆるんでしまった。
 帰り道もきわめて順調。夏の日差しの中、軽快に車を飛ばして家路についた。