|
<朝から快晴 FCAMPオフに参加したい>
朝から快晴である。こんな天気の時は、もう決まってキャンプの虫が騒ぎだす。
「明日もいい天気になりそうだなあ。明日あさってと、キャンプに行きたいなあ。」
「あら、でも、みほこはだめよ。来週末からは海外旅行なんだから。あなた一人か、ご実家のお父さん達を誘って、成田ゆめ牧場にでも行ってきたら?」
「みほこが来ないのに、おやじ達は来やしないよ。それにおやじ達にオレの3人じゃ、何となくいやだよ。一人でキャンプというのもわびしくてやる気がしないよ。」
「でも、みほこがキャンプで疲れて風邪でもひいたら、旅行にも行けなくなるのよ。 だから、みほこはだめよ!」
「う〜ん、そりゃそうだけど... そうだ! 確かFCAMPのオフが、道志で週末にあったよ。それに一人で行ってくるよ。最初誘われた時、休日出勤になるからと言って断ったんだけど、仕事のピークが少しずれて、確実休めるからなあ。mIKEさんにもようやく会えるし....」
「あそこは、渋滞に巻き込まれて行くのが大変よ! 無理しないで。あなたは、今年のはじめ、無理がたたって身体こわしたでしょ。今年1年は、しっかり様子を見てほしいの。また同じことになったら、今度は私も倒れちゃうわよ! だから、行かないで。家の中で勉強してましょうよ。今度こそTOEICで800点越したいんでしょ。」
「う〜ん....」
かみさんと娘のみほこは、来週末からスイス&イタリア旅行に出かける。この旅行は、かみさんにとって大切な意味を持つ旅行だった。
かみさんは膠原病という難病で療養中だ。もしものことを考えると海外旅行など行けるはずもなかったのだが、担当の先生が、海外旅行に行ってみたいという多くの患者の願いをかなえてあげようと、2年前から毎年ヨーロッパ旅行を企画していたのであった。先生と看護婦さん付きであれば、安心だ。
”いつか、ヨーロッパに行こう。”
このことが、かみさんに希望を与えた。かみさんは旅行先でむこうの人達と話ができたらと、大学時代に少しかじったフランス語を勉強しはじめた。テレビ、ラジオの番組を聴くのはもちろん、テープに取り繰り返し勉強した。また、通信添削も毎週取り組んだ。その甲斐あって、勉強してからわずか半年でフランス語検定の4級、5級に受かった。これが自信になり、ますます勉強に身がはいると同時に、病気のことを忘れられるようになったのだった。体調も前に比べると、だいぶよくなってきていた。そして、二人でこんな冗談も言えるくらい夢だけは膨らんでいった。
「よし、そんなら、遅くともオレの定年退職後は、二人で事務所をこのマンションの1階に開こうじゃないか。なおちゃん(かみさんの名前)は、フランス語教室と書道教室を開く。オレは、英語をもっと勉強して外国人向けの観光ガイドに英語教室の先生だ。なおちゃんは、毎年フランスに渡って、書道を広めてこい! 日仏の親善に一役果たそうじゃないか!」
だから、何としても、このはじめてのヨーロッパ旅行に無事送りだしてやらなければいけない。スイスは、フランス語圏。かみさんは夢に向かって一歩踏み出すのだ。
したがって、前々から、旅行の1週間前は、体調を整えるために家でじっとしていることに決めていたのだ。
しかし.... こうもいい天気を目の前にすると、心が揺らいでしまった。キャンプ好きの悲しき性なのか。それとも、ただ私が自分勝手なだけか....
<今日も絶好のキャンプ日和>
翌朝も、絶好のキャンプ日和だった。
「今日もいい天気になったなあ。やっぱり、ひとりで道志の森に乱入しに行くよ。だめだ、どうしても家の中でじっとしてられない。テント立てて、泊まり掛けのキャンプがしたい。」
「あなた、よく考えて! 今日は、フランス語会話の練習に付き合ってほしいの。お願いだから。」
「えっ! お父さん、キャンプ行くの? みほちゃんも絶対行くよ!! 置いていかないで!」 娘がしがみついてきた。
「う〜ん...」
ああ。 頭を冷やすため、下に車を洗いに行く。 レビンの窓ガラスに反射する太陽の光がまぶしい。空は、抜けるような青空だ。
オレにとってキャンプとは何か? それは、まず、季節のすがすがしさを楽しむこと。そして.... 私は、改めてかみさんが入院することになった4年前の半年間を思いだしていた。当時1歳になったばかりの娘は、遠く北陸のかみさんの実家に預けられた。私は、仕事で帰りが遅く、かみさんの元に行けるのは週末だけ。だれもいなくなった社宅の狭い部屋で、夜遅くふとんに横たわると、今起きていることがウソの世界のことのように思えてきた。ほんの少し前まで、笑いが溢れていたこの部屋は、今、妙に静かで冷え切っている。そんな時思うのは、キャンプ再開の夢だった。
「よ〜し。 かみさんが退院したら、また家族一緒に絶対キャンプをしてやるぞ! 今はバラバラでも、また楽しい家庭を取り戻してやる! 」
......そう、キャンプは、再びまとまった楽しい家族の象徴だった。そのキャンプのせいで、家族がぎすぎすしてちゃ、本末転倒だな。
レビンの白いボディーを、泡だらけのデッキブラシでよく洗う。ごしごし洗っているうちに、気持ちが収まってきた。
「お父さん!」「みほちゃんのお父さん!」 娘と、そして同じマンションに住むお友達の姉弟が寄ってきた。
「みほちゃんのお父さん、車洗うの手伝わせて!」
「みほちゃんも!」「ぼくもだよ!」
みんなにゴシゴシやられて、愛車レビンも嬉しそうだ。 おっ、そうだ! この子達もみんなで、近くの江戸川の川原でカレーパーティーでもやるか!
そのことを告げると、みんな大喜びだ。
「みほちゃんのお父さん、ちょっと待ってて! お母さんに話してくるから。」 お友達の姉弟は上へ上がっていった。
すると、それと入れ替わりに、かみさんが降りてきた。
「ビッグニュースよ! 清水公園キャンプ場に空きが1つ出たんだって! 予約したわよ。」
「えっ! ああ、でも、もういいよ。江戸川の川原でカレーパーティーでもやろうかと思っているから。」
この時、お友達のお姉ちゃんのほうが降りてきた。
「みほちゃんのお父さん、今日、これからおばあちゃんの家に行くからダメなんだって! あ〜あ、残念だなあ。」
かみさんをまた見る。
「でも、やっぱりやめておくよ。」
「いいのよ。清水公園ならすぐ近くだから。その代わり、みほこが夜中かいた汗が冷えないように、寝る前に背中にタオルを入れておいて、夜中に取り替えてね。」
「ああ....わかった。ありがとうナ。今から、おやじ達に電話しょう。」
「あと、明日帰ってきたら、フランス会話の練習に付き合ってね。」
「ああ、わかった。」
かみさんがニコっと笑った。”ほんとしようのない人ネ!”っていう表情をちょっぴり浮かべながら.....
|
|
|